来訪編

傍観者ではいられない
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≪000≫
プロローグ

 

 あなたの名前は 

 あなたはあなたを育ててくれた父に手紙を置いて家を出た。

 あなたとあなたを育ててくれた父は、血が繋がっていない。あなたは必要に迫られ、遠くの寮制の高校に編入する下見に行くため家を出た。

 その帰り道、ただ足の赴くままに歩き、電車を乗り換え、財布の中身も尽きた夕暮れ。あなたはその寂れた駅と近くの橋が、見覚えのある場所だということに気が付いた。

 あなたを育ててくれた母と、------がまだ生きていたころ、その母と父とあなたと-----と、このアスファルトの道を車で通って、山奥の清流に泳ぎに行ったことがあった。

 あなたはそれを思い出して、その道に足を向けた。



 どれくらいその道を歩いたころだろう。すでに日は暮れ、辺りは真っ暗で、あなたは半分欠けた月の光を頼りに人なき道を歩き続ける。一度振り返って見てみると、遠く、橋を超えた向こうに静かに瞬く無人駅の明かりが見えた。あなたは、随分進んだな、と思う反面、こんな場所に来てどうするのだろうという思いが胸に広がり、深いため息とともに肩を落とした。

 そろそろ引き返そうかとあなたが思ったその時、突然地面が揺れ始めた。地震だ。あなたは咄嗟に地に膝をついて揺れに備える。

 揺れは地鳴りと共にあなたを揺さ振った。森は怒れるように低く怒号を上げながらざわめく。あなたはその自然の猛威に恐れを感じながらも、じっとそれが通り過ぎるのを待った。


 それからいくらかして揺れが収まったとき、甲高い鳴き声を耳にした。はっと顔をあげて見た闇夜に、あなたは光る何かを見つける。

 鳥だ。

 あなたはすぐにそれに気が付いた。鳥は暗闇で羽ばたきながらもう一度鳴くと、Uの字を描いて木々の間に急降下した。

 あなたは嫌な予感を胸に、慌ててその鳥の後を追うように土砂で半分埋もれかけの坂道を上った。途中、カーブを描く道から見える山の頂に目当ての光る鳥を見つけた。どこか悲しげにうな垂れるその姿は、幻のように儚げだった。そこで、あなたはその鳥に違和感を覚えた。光る鳥は随分離れたこの場所からも羽の僅かな模様の違いが分かるほどにとてつもないほど大きい。

 あなたは少しでも早くその不思議な鳥の正体を知ろうと坂道を上ったが、いくらもしない内に、地震で崩れたらしい土砂と樹木に邪魔されて、それ以上は進めない。

 そのとき、小さな子どもの泣き声を耳にした。あなたははっと辺りを見回した。

 耳をすませると、山の斜面の少し上からその泣き声は聞こえる。あなたは声を辿ってひしゃげたガードレールに手をかけて跨ぐ。闇に包まれた斜面奥に光る何かが見えた。なんらかの理由で取り残された子どもだろうと判断したあなたは、脆くなっている斜面を急いで光のもとまで上っていった。

――お母さん、お母さん――

 あなたは近づいて初めて、その光が人の子どもが持つ光源でなく光そのものだということに気が付いた。見慣れない不思議なそれに、あなたはどうしようかと土に寄りかかったまま立ち尽くす。その光の声は、あなたに届いたのが不思議なほどか細い声で、なおもお母さん、と泣いた。

 その時、大きな羽音とともに、あの鳥が空へと舞い上がった。それに慌てるように、また光るそれがお母さん! と少し大きな声で呼ぶ。あなたはその光が呼んでいる相手があの鳥だということを知った。しかし母鳥は子どもの声に気付くことなく一声鳴くと、空を舞う途中で忽然と姿を消した。


 途端、光るそれは声をあげていっそう泣いた。

――お母さんにおいていかれた。お母さん、行っちゃった――

 だんだん小さくなる光を、あなたは慌てて手で捕まえる。

「待って! 死んじゃ駄目だ」

 光はあなたに気付いて瞬いた。

――誰? あなたたち――

 あなたは光るそれの言葉に首をかしげる。光は悲しそうに言った。

――お母さん、いなくなっちゃったの――

「そうみたいだね……」

――お母さん、ワタシに気付いてくれなかった――

「うん……」

――お母さんはワタシのことが嫌いだから気づかなかったのかな――

「違うよ!」

 あなたは言った。それに続いて------、いやボクも頷いた。だってあなたはあなたの中のボクには気付かなくとも、ボクが死んでからもずっとずっと誰よりも大切に思ってくれたもの。ボクの死はあなたのせいではないのに、ずっと心を痛めて悲しんでくれたもの。そして今も思ってくれている。だから分かるよ。気付かなくても嫌っているというわけじゃないんだよ。

 光るそれは、ボクのその言葉にほっと安堵するように強く光った。

――ワタシ、お母さんに会いたい――

 あなたはそれに言葉を詰まらせる。あなたの代わりに、じゃあ一緒においでと言えば、光るそれは嬉しそうにあなたの中に滑り込んできた。

 あなたが気付いたときには光るそれは目の前にはいなくなっていて、あなたは不思議そうに周りを見回した。一つ首をかしげて、あなたは斜面にある獣道を横歩きで通って下の道路のガードレールを跨いだ。あなたの中で光るそれが言った。

――お母さんに会いたい。だからお母さんのいる世界へ――

 光るそれの力で目の前に現れた光の渦を、あなたは目を見開いてまじまじと見た。それは夜の闇に眩いほどの光の塊。目を細めても光の向こう側は分からない。あなたは恐る恐る、その光の渦に手を伸ばす。

 そして光は、あなたの全てを包み込んだ。





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光る鳥の時間軸的には、光る鳥の生まれた世界→多くの世界→地球(不死鳥伝説樹立)→ドラクエ8の世界です。
2009/08/19