その教会は城内の町の一角にあった。
オレは今まで足を踏み入れたことがない。
それまで教会に立ち寄る人々を見て興味を持たなかったわけではないし、行かなくてもよいのかと思わなかったわけではない。
だけど機会がなかった。トロデやトーマス先生やメイドという身の回りの誰もが今はまだ行かなくていいと答えたからだ。
今になって思えば、オレが言葉を覚えしっかりと理解した上で連れて行くことが予め決められていたのだろう。
教会でオレとトロデを迎えたのは、見覚えのある神父を筆頭とした幾人かの神官とシスター。
神父は初日にトロデにオレが体調を崩したときに連れてこられた人だ。プサイの十字架も相成って凝視してしまったからよく覚えている。
そこではただいくつかの問いかけに答えただけだ。
いわく、どこから来たのか――トロデに言われた通り記憶がないと答えた。
いわく、自分の信仰を覚えていないのか――もちろんイエスと答えた。
――そうしたら洗礼式だ。
女神正教と呼ばれる宗教は、この国で一番信仰されているのだろうというのが、ここ二ヶ月の生活でオレが感じたことだ。
郷に入っては郷に従え。
その信仰がこの国で暮らしているものにとって生活に浸透しているくらい当たり前なら、オレも信仰していないと不自然だろう。同じ宗教者の中に異教徒が混ざることの恐ろしさは、向こうの血生臭い歴史から学んでいる。
それにオレは無宗教だ。多くの日本人がそうであるように、クリスマスの後、正月に神社へ初詣に行くことに、なんの抵抗も覚えない。
オレが洗礼式を受けると決まってから、数日と置かずしてスベッラなんとかとかいう歴史を感じさせる大聖堂に連れて行かれた。大聖堂の遥か向こうには巨人のスプーンでくりぬかれたような大地の塊が、僅かに接した地面との絶妙なバランスで支えられているという不思議な光景。
教会の屋根の上にはプサイの十字架。
大聖堂の敷地の広さはかなりの規模で、もしかしたらこの信仰は世界で一番広まっているものかもしれないと検討をつける。
大聖堂の中も、何百人どころか何千人もの信者が収納できそうな、鮮やかなステンドガラスの美しい礼拝堂だった。ステンドガラスだけでなく、特殊な壁なのか、日の光が礼拝堂を明るく照らしているため、部屋の中だと言うのにまるで外にいるかのように明るい。
左右対称の礼拝堂にところどころ置かれている像は、耳がエルフのように尖った女性の白亜の天使像で、ここにも天使という概念があるんだと思うと不思議な親近感が沸いた。
「それは神の御遣いである神鳥を人の姿に模した像ですよ」
像に見入っていたオレに、今回の引率者であるトーマス先生が説明してくれた。
トーマス先生は、最初は何に怯えているのかと言うくらいおどおどしていたが、しばらく過ごすうちにその雰囲気は消え、二ヶ月経った今では、何か憑き物が落ちたようなすっきりした顔で笑うようになった。
信仰に明るい彼の言葉を疑いはしない。ただ天使でなく神鳥を擬人化しているということに少し驚いた。
「レティスを?」
忘れるはずがない。ラーミアではなかったが、ドラクエに巨大な鳥。しかももしかしたらオレがこの世界に来ることになったあの鳥かもしれないのだから。
「ええ、その神鳥です」
「レティス、女性ですカ?」
レティスを模したという像は、女性の姿だ。
そしてオレが見たあの巨大な鳥もまた母親……メスだった。
「ええ、女神様にお仕えする方ですから女性であると言われています」
「……レティス、夫いる?」
「ぶっ! レティスにですか? まさか!」
ぎょっとして見られた。よっぽどおかしな質問だったんだろう。レティスの赤ちゃんらしい光を見ているオレとしては当然の疑問だったんだけど。
「卵つくるない?」
「えーと、まあ女性という点では可能かもしれませんが、そういう話は聞いたことがないです」
「そうなんだ」
あの絵本の巨大な姿だけでなく、レティスがメスということも知って、もしかしたらという思いが強くなったんだけれど、子どもはいないらしい。
レティスを見たことあるかという質問にも、トーマス先生はノーと答えた。
レティスが最後に見られたのは数百年も前の七賢者の時代だという。
数百年。彼の話し振りからすべてが本当のことだと思っていたが、今の話を聞くところ、全てを鵜呑みにしてはいけないのだろうという印象を受け取った。どこまでが本当かは分からない。それは向こうの世界の各地に残る神話のように。
オレはレティスらしき巨大な鳥を見た。
だけどそれは、オレにとってはつい二ヶ月前のことなのだ。
それもオレの世界。
時間のずれなのか、この世界では数百年前。
トーマス先生いわく、女神正教は世界を救った七賢者の時代に生まれた歴史ある信仰だという。七賢者は言うなれば始祖と言ったところだそうだ。
それを聞いてひっかかった。その時代に新しく生まれたのなら、それ以前に信仰されていた宗教もあるのではないだろうか。女神正教のほかにも三大宗教のように代表的な信仰があるのかもしれない。
それは素朴な疑問だった。
だけど。
「信仰、他にあるますカ?」
きっと、
「他? 他はないですよ」
「……ない?」
「……ええ。正しくは、なくなったと言いますか。……当然ですよね。世界を危機に陥れるような邪教、目が覚めればやめたくなるものでしょう」
――正しくは『なくなった』?
「ね?」
早口に言われた後半の意味を租借するよりも早く、トーマス先生に同意を求められる。
その表情は柔和な笑みだったが、なぜか背中が冷えるような妙な感じがしたのはオレの気のせいだろうか。
オレはよく分からないまま、ただ曖昧な笑みだけを返した。
幸いにもそれはちょうど、儀式準備用の小部屋に着いたところで、オレはそのまま儀式の準備に移った。
そして儀式が終わると、トロデーンの神父より豪華な紫に金の縁取りの衣装の位の高そうな神父らしき人に、木で出来た小さなロザリオをもらった。
◆◇◆◇◆◇◆◇
私の失敗は教師をつける、そのときにあった。
それに気づいたのは二ヶ月後。にようやく信仰について聞くことが出来て、初めて彼を教会に連れて行ったとき。
神父はの言葉を疑うことなく記憶喪失であること、信仰も忘れていることを信じた。
それにほっとしたと同時に不思議にも思ったのだ。
あれほどを疑っていたこやつが、どうしてこんなにあっさりの言葉を信じたのかと。
が洗礼を受けると決まって、いくつかの慣習を教えることになったのだが、彼はすでにその中のいくつかを知っていた。
そのときの私の衝撃は図りがたい。
がそれらを当たり前に受け入れていることが、あまりにも自然すぎた。
おかげで思わず流しそうになった。危なかった。
私とて、信仰する者としてが受け入れてくれるのを嬉しく思わないはずはない。
しかしそれなら今までの、私の苦労は何だというのか。
の前ではわざわざ祈りを捧げることもせず、信仰の説明どころか話題も避けて、のやりたいようにさせていた。――はずだ。
それがすでにトーマスや周りの者から見聞きして知っておっただと?
「そこまで怒るない」
「これが怒らずにおられるか!」
場所はに与えた部屋の中。に事情を聞いているうちに、教会で一度抑えられた怒りがまた沸いてきたのだ。思わず声を荒らげた私を、教会のときと同じように諌めたのは当事者であるだ。
「は怒りがわかないのか!」
「世話ニなる。そこのシキタリ倣う当然おもてました。だから怒るナイ」
落ち着いた声音で答えたは困ったように眉を下げる。
……別にを困らせたいのではないのに。
「がそうでは、私が怒るわけにいかないではないか……!」
「おれ、信仰より、記憶ナイこと信じてくれタ不思議です」
「それは当然だろう。そもそも別世界から誰かが来ることなどそうあることではない。神父は疑い深いが、がすんなり信仰を受け入れたなら同じ世界のどこかの出身だと思うものだ」
納得したようにうなづくは、すぐに首をかしげて私を見る。
「……トロデ、なぜ世界違うコト信じまシタ?」
なるほど、その疑問はもっともだ。
「が変な渦から現れた瞬間を見たのでな。それに言葉や顔つきが違うことを考えて。あとは荷袋だな」
そのどれか一つでも欠けていれば、自分で予測したこととはいえ、すんなり受け入れていたとは到底思えない。
「荷袋……おれノ?」
驚きと嬉しさを含んだような声でが私を伺い見る。そういえば、に荷袋のことは話していなかったか。
「破裂して燃えたからか半ば消し炭に近いが、大事なものかもしれないので保管している。今まで返さなくて悪かった。後日届けよう。……それはともかく!!」
の荷袋と聞いて、連想で神父の姿が思い浮かぶ。
私が私棚に隠しているの荷袋はもとから残っているが、その他のが身に着けていた衣服は、一度神父の手によって捨てられそうになったからだ。神父がの信仰を疑ったのは間違いなく、その衣服がこの辺りでは見たことのないデザインであったことだろう。
幸いにも、衣服は炭と血で汚れていたので、洗いに行かせる名目で取り返し荷袋と同じように隠してあるが、おかげでまたもや怒りが戻ってきた。
さすがに大声を出すようなことはしないが、私の表情ではこのマグマのような心情が分かったのだろう。
「トロデ。おれのこと知ってるトロデだけデス。多くノ人知るはダメ。だかラ良い、結果的ニは」
「分かっておる……」
そう、結果的には疑われることなくすんだのは幸いなのだ。疑われ、予定通りの処置などされていたら、今頃はここにいないのだから。
「おれもいつか話スマす。誰か信用できル人、今はトロデだけ。それでハダメですカ?」
「ダメではない。ダメではないが」
友人に信用してもらえることは嬉しい。だけどは本当にいいのか。この国のしきたりに従わなければいけないと、自分の気持ちを押し殺しているのではないだろうか。それが私は心配なのだ。
それから少しして、メイドが午後の茶の準備を始めた。
もうそんな時間なのかとびっくりする。を連れ出し教会へ行ったのが朝の少し遅い時間。そこで過ごしたのは半刻ほど。それからここに戻ってずっと怒り混じりの愚痴を漏らしていたことになる。
よくぞは付き合ってくれたものだ。私なら友人とはいえ、そんなことすれば愛想がつきるかもしれん。
「いただきます」
そう言っては手を合わす。
それを何気なく見る。はいつも食事や茶の前にそれをする。終わったあとは同じように手を合わし違う言葉を口にする。
祈りに似ているが、異なるの世界の風習……と思われるもの。
私が見ていることに気づくと、は合わせた手を一べつして言った。
「『いただきます』は食べルお礼。えーと、肉、野菜、魚。食べ物ニ、おれに食べラレルお礼言いまス。料理人作る、だかラおれ食べるデキる。ありがとうノお礼言いマス。それガ『いただきます』。おれノ世界、おれノ国、おれノ習慣。トロデの前ハ言う大丈夫ですネ?」
今まで見ていたそれにそんな意味があったのか。
「もちろんだ」
私がうなづけば、は嬉しそうに顔をほころばせる。
「ありがとう。『いただきます』、みんナには秘密でス」
他の者にはまだ言えない、私とだけの秘密。それは何となくこそばゆい言葉だ。
はそれでいいという。
それならば、それでいいのだろう。
が私だけを信用して、私だけに故郷の習慣を見せてくれるのなら、私だけはそれを受け入れようではないか。
友が友らしく暮らせるように。
◆◇◆◇◆◇◆◇
オレは気づかなかったことだが、どうやらトロデはオレの故郷での習慣を大事にしようとしてくれていたらしい。
客人として大事にしてくれているとはいえ、そういう気遣いはトロデの優しさだろう。
そんなトロデにふさわしくなるには、勉強だけでは足りないんじゃないだろうか。
それは暮らしている中で、周りのオレへの態度から思ったことだ。
好意的な人も多い中、オレを快く思わず陰口をたたく人、またその感情を隠そうとしない人は、ここでも一定数存在した。
その、言ってくる人の半分はトロデに関するものだ。
それは何かある前に危険な遊びは止めさせろ。だとか、王子に畏まって仕事が出来なくなるから町に来させるなとか、そういう類のもの。
城の一部の人はそういうことを、トロデでなくオレに注意する。
トロデは成人しているのでそういう訴えも分からないでもない。トロデに直接注意できないのも城の人とトロデの距離上仕方がないとも思う。
だけど、オレだって強引なトロデを説得することなんて難しい。根気よく数少ない言葉で説得したらしたで、今度は拗ねていじけられる。そうなれば今度はどうして上手く説得できないのかと、その一部の人に咎められる。そう、トロデへの不満は最終的にはオレへの批判になる。
陰口のもう半分は、そういう批判含めたオレへの悪口だ。そして批判以外は、例えば身分をわきまえろだとか税金の無駄食いだとかそういった類のもの。
結果的に見ると、彼らの不満のほとんどはオレへ向けたものということになる。
幸いにもこの国の人は、見る限りトロデ王子という人を好いているようで、オレの危惧していたトロデへの直接的な悪口は今のところ聞かない。
故郷の世界でそういう陰口に慣れているオレとしては、トロデにさえ被害が及ばないなら自分が何を言われようと構わない。
ただ気になることは、そのオレへの悪口にはおかしな現象があることだ。
オレとの距離があればストレートに口にするくせに、面と向かって言う分には何故か言い回しが柔らかく、優しくなる人がいるのだ。
分かりやすいのは特に感情を顔に出して隠そうとしない人だ。
あんなに苦々しい顔でオレに近づいて来たのに、いざ近づいた途端どこか戸惑い、その次には柔和になる。
面と向かうか数歩離れた距離というだけで、そんなに違いが出るのは奇妙なことだ。しかもそのおかしな現象は、日が経つにつれ著しくなってきているように思える。
……何だろうか、この現象は。
オレへの悪口の不思議な現象は濁して、オレにできることをトーマス先生に相談してみた。
――ちなみにトーマス先生はトロデにとって信仰の件の失敗の要らしいが、今もなんとかオレの教師でいてくれている。そもそもトロデが彼を教師に選んだのはトーマス先生の実力よりもその勤勉かつ真面目な態度にあり、そしてそれはトーマス先生の信仰心から成ったものだったからだ。
トロデが侮辱されることはないようなので、もとより肝心な自分の問題。
二ヶ月経った今も客人扱いでのほほん暮らすのは、日々働いて暮らしている人にとってかなり印象悪いだろう。まあ今更ではあるけれど、これまでは言葉の問題上どうしても強く訴えられなかったことだ。
よく散歩で行く先の庭園の手入れは庭師に俺の仕事だと拒否され、掃除や洗濯はメイドの仕事だと拒否され、厨房のオレでも出来そうな仕事は下働きの仕事だと拒否され、その他もろもろ断られた。
よって、今まではひたすら勉強とトロデとの遊びに日々を費やすことになったのだ。
しかし、言葉を覚えた今、与えてもらってばかりなんていられない。働けるなら働きたい。
「様の、王子のご友人という立場上、一般的な職は難しいでしょうね」
それは何度も仕事を拒否される態度からなんとなく感じ取っていた。客人という立場では働くというのは拒否されるだろう。けれど働きたい。客人ではあるが『トロデーン国民』でもあるのだから。
「おれにデキる仕事ない?」
トーマス先生はしばらく悩んだあと、口を開いた。
「文官や兵士なら問題なく受け入れてくれると思います」
「本当? どうやってナルンですカ?」
「様が文官を目指すのなら今のまま勉学に励めば良いと思います。しかしこの国の王族の傍で働く王城文官になるには難易度の高い試験をパスしなければなりません。記憶喪失の様は今、一から多くのことを習っている段階です。並ならぬ努力と才能をもってしても試験に合格するには最低三年はかかるでしょう」
「三年も?」
「三年というのは、それこそ寝る間も惜しんで勉学に注ぎ込み、かつ才能があった場合です。普通なら十年はかかります」
「十年!? それ遅スギルます!」
「『遅すぎるます』でなく『遅すぎます』です。ええ、それだけ時間がかかるんです。私だって幼い頃から猛勉強して合格したのは二十代後半を過ぎてからですから」
そんなに大変なのか。さすが王族に仕えるだけある。
「文官でない道を行くのであれば、兵士ですね。近衛兵であれば、王族を守る盾として傍に仕えられますから。それこそ文官よりも近い位置にあるでしょう」
「近衛兵なるニハどうスレバいいですか?」
「こちらも試験があります。そのため先に兵士になり腕を磨くことが多いです」
「兵士……か。兵士は剣デ戦争スルこと仕事でスね?」
「戦争!? とんでもない! 有事であれば相手国と戦うことが仕事ですが、そうでないなら相手にするのは魔物です。魔物と戦い民衆を守ります」
慌てて捲くし立てられた。言葉の覚え間違いのせいで誤解が生じたようだ。「戦争」と「戦う」はまた少し違う単語だった。
ところでこの国は、少なくとも今は人同士の戦争をしてないし、する予定もないらしい。戦争のない国で育ったオレとしてはラッキーなことだ。
それはともかく。
「兵士、おれでもナレる?」
「ええ、トロデーン王国の住民で十五歳以上、剣技のスキルがあれば希望すればなれます。最初は見習いですけどね」
すきる? 文脈からして技術という意味だろうか?
「近衛兵ニも条件あリマすか?」
「はい、試験も必要ですが条件もあります。剣技スキルだけでなく遠距離武器スキル、そして攻撃魔法も使えることが条件になります」
攻撃魔法!
「おれ、魔法使エますか?」
欠陥品かもしれないと言われたが、それでも可能性があるなら知りたい。トーマス先生はすぐに頷いた。
「手続きすれば調べれますから調べましょうか? あと剣技スキル、遠距離武器スキルも」
「お願いシます!」
まず兵士の絶対条件があるかどうか知るために「すきる」を調べてくれることになった。
スキルというのは、その人だけに備わっている、育てることの出来る技術だそうだ。
スキルは心の在り方を表す「心」という一つのスキルと、体の技術を現す、一つから四つの「身」というスキルによって成るという。
スキル見の能力を持つ人に会得することの出来るスキルを見てもらうのだ。
その能力を持つ人はトロデーン兵ではあるが、看護兵と同じく特殊な兵にあたり、城内の勤務が主らしい。
トーマス先生が手続きをしてくれて、さっそくその日に会えることになった。
そして調べてもらった結果。
オレに備わっているスキルは「剣」「短剣」「二刀」「格闘」の四つの身スキルと「しつじつ」という心スキル。合わせて五つ。つまり今までで確認された最多のスキル数と同じだということになる。
問題は、どう見積もっても近距離型択一ということか。短剣は飛び道具のほうでないので遠距離には使えないのだ。
結論。オレには兵士になる最低条件の「剣」の身スキルはあるが、近衛兵になるための「遠距離武器」の身スキルはない。
結果にしょんぼりするオレに、スキルを調べてくれた人が淡々と説明してくれたことには、オレの「しつじつ」は「質素で誠実なこと」という意味合いらしい。つまり「質実」だろう。質実であれと言われても、あまりぴんと来ないが、大体の人が最初はそういうものらしい。
心スキルは、その人の心の在り方に依存する。
心というものは変化するものだ。
だから、環境や何かがきっかけで心スキルが下がることも成長しなくなることもよくあるという。
逆に言えば、環境や何かのきっかけで著しく成長することもあるということだ。
それに比べ身スキルは鍛錬によって成長していく。
心のような外的影響は受けないので、鍛錬すればするほど成長するし、サボれば成長しない。
また身スキルは「かごレベル」というものと密接な関わりがあるらしい。「かごレベル」は兵士が魔物と戦う際に神父から与えてもらう能力とのことだそうだが、話がスキル見の人の専門外になるせいか、かなり大雑把な説明で終わってしまった。
スキルを成長させるかさせないかで、その成果は如実に現れる。成長すれば、独自の技が使えるようになるらしい。
だからこそ自分に合ったスキルを成長させるのだ。
ここで、もしオレが身スキルのない「槍」を鍛錬したとしよう。
それなりに扱えるようにはなるだろう。だけど技は覚えられないし、スキルを持っている者と比べれば大人と赤子ほどに熟練度が違ってくる。
そりゃ、スキルのあるほうを鍛えるに決まっている。
また、スキル見とは別にスキルの成長ぶりを見る能力を持つ人もいる。
その人にオレのスキルの成長ぶりを見てもらったところ、全てゼロ。つまり全く成長していないらしい。
まあ調べてもらう前からそうだろうとは思っていた。
心スキルなんて「質実」だ。今のオレの生活のどこが質素か。誠実か。正直マイナスを危惧していたけれど、マイナスはないらしいので、それは安心だ。
とにかく、これで兵士になる条件「剣」スキルだけはあると分かった。
次に魔法だ。こちらも同じ日に見てもらえることになった。
そして調べてもらったところ、魔力はかなり多いということだ。
どのくらい多いのかというと、今の近衛兵の平均を1とするとオレは2〜3。つまり二倍から三倍。
「かごレベル」というものをほどこしていない段階でその数字はかなり異例だという。
次に使えることのできる属性を計ってもらった。
属性は大まかに分けて攻撃系・補助系・回復系・その他の四種類があるそうだ。
最初の三つはドラクエで該当するだろう魔法が思い浮かぶが、最後の「その他」って何だ。そんなオレの疑問をよそに、水晶のような透明な石に手を当てさせられ計測された。冷たい石の感触がじんわりとした温かみになる。……どういう仕組みだこれ。
属性を調べるときはまずその属性が「ある」「ない」に分けられるそうだ。そして次に「ある」とされた属性のレベルを計る。
オレは四つの属性、すべてに「ある」という結果が出た。
さらに「ある」属性のレベルが計られた。数値は攻撃1、補助3、回復1、その他7
……ここでまた「その他」が気になる。一番目に多いって何だ。
属性を計ってくれた人もオレの結果に驚いたらしく、首をかしげながら「その他」について説明してくれた。
いわく、剣技などで使えるいくつかの特技の中で特殊なものは、この「その他」がないと覚えられないものが多いらしい。
例えばかえん斬りだとかいなづま斬りだとかそういう魔法を組み合わせたような系統の特技だ。
ドラクエ知識上そういう特技にMPは必要ないはずだ。
気になったので、その特技というものがMPを使うのか聞くと、普通の魔法が自分の中の魔力を使って発動するのに対し、そういう特技は周りの大気にある魔力を使って発動するという。
だから自身の魔力はなくても大丈夫だが、属性の「その他」がない人が特技を使えること――つまり周りの魔力を収集すること――はないんだと。
さらにいうと「その他」属性がある人の数は多いが、特技に関連すること以外は謎で未知数らしい。
まだ多くの謎が残っているため属性名をつけるでもなく「その他」と呼ばれている。
この属性がある人でもほとんどが1〜2の数値らしく、オレみたいに7なんてレベル数の人は今までいないらしい。
そのため現在その他属性は、特技を覚えるかどうかの目安にしかならず、魔法という面ではそれ以外の三つを見ることになる。
その数値が攻撃1、補助系3、回復系1。
オレが楽しみにしていた攻撃が1。0よりはマシだ。でも1……。
属性のレベルについて説明を聞いて、オレはなおさらダメージを受けた。ひどい。あんまりだ。オレはこの先メラゾーマもべギラゴンもイオナズンもバギクロスも使うことはできない……。
それぞれの属性のレベル数値の目安はこうだ。
攻撃1……初歩である攻撃魔法が使えるようになる。覚えるレベルは初期魔法のみ。生活に使えるレベルから攻撃魔法に使えるレベルと、個人により能力差がある。 魔力量やかごレベル、努力しだいではかなりの威力まで伸ばすことができる。
攻撃2……中級魔法が使えるようになる。魔力量やかごレベル、努力しだいではかなりの威力まで伸ばすことができる。個人による能力差あり。
攻撃3……上級魔法が使えるようになる。魔力量やかごレベル、努力しだいではかなりの威力まで伸ばすことができる。個人による能力差あり。
攻撃4……スキルを上達しなくても二つ以上の複数の攻撃魔法を操ることができるようになる。魔力量やかごレベル、努力しだいではかなりの威力まで伸ばすことができる。個人による能力差あり。
攻撃5……スキルを上達しなくてもあらゆる攻撃魔法を操ることができるようになる。魔力量やかごレベル、努力しだいではかなりの威力まで伸ばすことができる。個人による能力差あり。
補助1……初期補助魔法を覚えることができる。スカラ、ルカニ、ラリホー、メダパニ、マホトラなど。個体魔法のみ 。またスキルで覚える可能性がある。
補助2……グループ補助魔法が使えるようになる。 スクルト、ルカナン、ラリホーマなど。またスキルで覚える可能性がある。
補助3……全体補助魔法が使えるようになる。ピオリム、フバーハ、ルーラ、リレミト、トヘロスなど。またスキルで覚える可能性がある。
回復1……初歩である回復魔法が使えるようになる。覚えるレベルは個体魔法のみ。ホイミ、キアリーなど。個人により能力差がある。またスキルで覚える可能性がある。
回復2……中級回復魔法が使えるようになる。ベホイミなど。魔力量やかごレベル、努力しだいではかなりの威力まで伸ばすことができる。個人により能力差がある。またスキルで覚える可能性がある。
回復3……上級回復魔法が使えるようになる。ベホマなど。魔力量やかごレベル、努力しだいではかなりの威力まで伸ばすことができる。個人により能力差がある。またスキルで覚える可能性がある。
回復4……中級全体回復魔法が使えるようになる。ベホマラー、キアリク。魔力量やかごレベル、努力しだいではかなりの威力まで伸ばすことができる。個人により能力差がある。またスキルで覚える可能性がある。
回復5……上級全体魔法が使えるようになる。ベホマズンなど。魔力量やかごレベル、努力しだいではかなりの威力まで伸ばすことができる。個人により能力差がある。またスキルで覚える可能性がある。
その他1……スキルにおいて特殊な特技を身に着けることができる。個人により能力差がある。
その他2……スキルにおいて周囲の魔力と自分の魔力を融合させて行う、より高度な特殊な特技を身につけることができる。個人により能力差がある。
その他3以上……幻のレベル。謎。
オレは攻撃1レベルだから、初歩の攻撃魔法が使えるようになるということだ。 魔力量やかごレベルで変わるとはいえ、所詮レベル1。せめて2であれば希望も見えるが、レベル1。オレの魔力はとんでもなく多いらしいし、かごレベルはともかく「努力しだい」というのは勉学に励んで見解を深めればいいというから、こうなったら「今のはメラゾーマではない、メラだ」を目指せばいいのか!?
さらに回復のレベルも低い。残念だが、ホイミくらいは使えるようになる、と回復の場合は割り切れる。
補助はレベル3だから、ルーラやリレミトが使えるようになるかもしれないと思うと楽しみだ。その他は……まあかえん斬りが使えるらしいことは確かなので、数値は気にしないようにしよう。
そして、オレは近衛兵にこそなれないが、近衛兵の一つ下のランクにならなれる可能性があるらしい。
そのランクになる資格は遠距離武器スキルか攻撃魔法の属性のどちらかがあること。
オレには攻撃魔法の素質があった。だからなることができる。
遠距離武器スキルや攻撃魔法は王族警備の都合上、近衛兵には絶対不可欠のものだという。
それは例えば強敵を前に近衛兵最後の一人になったとしても、守るべき王族を背後に庇いながら遠距離から攻撃するすべが必要だからだ。
そしてオレにはそのすべがあるんだ。
――攻撃魔法が使えることに浮かれていたオレはすっかり忘れていた。
さらに準近衛兵になることができるというのもそれに拍車をかけていた。
オレの魔力は“欠陥品”なのだ。
「欠陥品というのは、先日も言ったとおり、諸刃の剣なのだ。普段から制御ができないということは、それだけ危険をはらむことになる」
喜び勇んでスキルと魔法属性について報告したオレの喜びを「欠陥品」という言葉が重くのしかかる。
トロデはオレの表情が変わったことに気づいたのか、慌てた様子で早口で言葉を重ねた。
「。お前には気の毒だが、これは仕方ないことなのだ。お前が絶妙のタイミングで攻撃魔法を使ったとき、上手く作用しなかったらどうなると思う? もしそれが不発であったらチャンスをふいにして身を危険に晒すかもしれない。またもしそれが暴走してしまったら、止まらぬ限り、やはり自らを滅ぼすことになるだろう」
もしも攻撃魔法を使ったとき。そう言われ、オレは自然、トロデを背にかばう場面を思い浮かべる。
それは不発、暴走のどちらにしろ最悪の結果で。
……そんなことあっていいはずがない。
じゃあ、オレは近衛兵には一生なることができない? ……いや、そんな魔力なら、なれなくていい。
万が一攻撃魔法を使うことで、守りたい
欠陥品であることと魔力の多さから、オレはしばらく魔力のコントロールの修練を中心にすごすことになった。
そりゃそうだ。オレは爆弾を抱えているようなもの。
魔力なんて静電気のようなものとしか捉えられていないオレにとって、自分の内の魔力とは未知の爆弾だ。
魔力のコントロールを習う相手は攻撃主体の特殊兵である『魔法兵』だ。
本来ならば魔力の扱いは成長とともに覚えるもので、覚えるのが苦手な者は両親など家族や教会の神父に習うそうだ。
だけど、オレの魔力の特性は危険と隣り合わせなため、一般人が教えるのは危険を伴う。
そこで魔法のプロフェショナルである兵士に魔力のコントロールについて習うのだが、兵士が武力の知識を一般人に教えるのは禁止されているらしい。
そのためオレは半ば強制的に兵士になることになった。元からなるつもりだったから問題はない。
言葉を覚え、ようやくスタートラインに立てたオレが所属することになったのは、最初に名前を交換し合った兵士長、アランの部隊。オレとしては知っている人の部隊で嬉しいかぎりだ。
そこに魔力のコントロールが得意な特殊兵も所属しているらしい。
特殊兵は特殊兵で部隊になっているのかと思っていたが、そういうわけではないらしい。
特に看護兵や魔法兵は、戦闘では回復役や攻撃魔法を担うことになるという。ドラクエでいう僧侶や魔法使いのようなものだろう。
そんな特殊兵の中には、特殊兵に求められる以上の鍛錬をこなして、一般兵以上の戦力を身にした者もいるという。
まあ、そんな魔法兵がオレの魔法の先生なわけだが。
そうしてオレの新たな生活が始まった。
……あまりの鍛錬の厳しさに、ちょっと後悔したのは秘密だ。
※スキルについての考え方が変わったため、改訂にあたり夢主のスキルを変更しました。
魔法の属性について
DQ3・6・9のように職業で覚える魔法(特技)が決まっているのでなく個人の才能に左右されるだろうDQ8の世界観から、事前に覚える魔法の傾向とレベルを調べることができるとしました。
2010/07/07
2010/09/20(修正)
修正:夢主の魔法の属性変更のため修正。攻撃魔法も使えることにしました(ただしレベル1の上、暴走する可能性があるため基本使用不可能)
夢主(比較のため)と原作キャラ4人の魔法属性レベルは以下反転
キャラ名:攻撃:補助:回復:その他
夢主:1:3:1:7
エイト:4:3:5:2
ヤンガス:無:2:5:2
ゼシカ:5:3:3:2
ククール:4:3:4:2