「おーい、灯り消すぞー」
「点呼ー。おい、はいないのか」
「談話室じゃないか?」
「ああ、またか」
そんな会話が聞こえる部屋に、慌ててオレは飛び込んだ。
「ごめん!遅レた!」
「遅刻だぞ、早く寝る準備しろ」
見回りの兵士の言葉に、急いで自分のベッドへ戻り、棚に抱えていた本をしまう。
隣のベッドのアコウが、興味深げにオレの棚を覗き込む。と同時に灯りが消される。
「なあ、今度は何の本を読んでたんだ?」
「『神のご加護は如何なるものか』ダよ」
この宿舎に寝泊りするようになって早一ヶ月。風当たりはさすがに城の中ほど強くない。それでもオレに対して友好的でない者もいるにはいるが、同室の彼らは比較的最初から友好的で、この一ヶ月で随分仲良くなった。年が近いのも理由の一つかもしれない。
特に隣のベッドのアコウは好奇心が強いのか、あれこれと質問されるうちに、よく話す間柄になっていた。
おかげで庶民が使う言葉遣いをよく使うようになった。こちらのほうが断然話しやすいので、最近ではトロデやトーマス先生と話すとき以外は、もっぱらこちらばかりで話している。
「ああ、加護レベルの本。昨日はスキルの本読んでなかったか」
「あレは読み終わっタ」
「ひえー、いつの間に。本の虫だなは」
「さっさと寝ろ!」
見張り兵士の鶴の一声に、まだ騒然としていた室内が静まり返る。それに満足したのか、兵士は静かに扉を閉めて去って行った。
今回、オレが加護レベルを調べたのにはわけがある。
新人兵には一ヶ月、兵士になるための準備期間がある。その間に雑用や兵士の仕事はもちろん、兵士としての実力をある程度身につけるんだけど、その一ヶ月を終えたあと、実戦として討伐隊に出るのだ。そうして初めて正式な兵士として認められたことになる。
そしてその討伐隊に出るために、兵士はみな、加護レベルを施されることになる。
加護レベルは、正式名称を『神のご加護レベル』という。名前のとおり、神から受ける加護ということらしいが、本当なのだろうか? 確かにルカさんや、他の兵士の本気の試合を見るところ、明らかに一般人では出来ない動きをしているけれど、それがイコールで神様の存在を認めることになるとは、到底思えない。……誰にも言わないけど。
まあ、それで実戦前に加護レベルの洗礼を受けるから、加護レベルについてしっかり知っておけとルカさんに言われたため、復習としてもう一度調べたのだ。
一度は地獄の鍛錬に慣れて、体力的に図書館に行けるようになったときに借りて読んでいる。その時借りた本の隣にあった本を今回は借りたんだけど、あまり記述に違いはない。
加護レベルが上がるにつれ、能力・体力・魔力が上がること、それからレベルアップの際に、人によっては、新しい魔法や特技を覚えることは、ドラクエで知っているとおりだ。
それから個々の性質によって特殊な耐性が生まれること。例えばメラ系の魔法に強い、などだ。生まれ持った性質はもとからあるそうなんだけど、それが耐性と言えるほど効力を持つには、加護レベルを受けないといけないらしい。
またスキルの段階が上がったときに表れる、身体能力の差異による負荷がなくなる。
地獄の鍛錬を始めて一ヶ月経った今、オレの身スキルである格闘スキルは三段階目まで、剣技スキルは一段階目まで成長している。
スキルが成長することで、その特定の武器を持って戦闘態勢を取ったとき、体に変化が現れるようになる。スキルの段階が上がっていれば、例えば素手なら格闘スキルと認識されてすばやさが、剣を持てば剣技スキルと認識されて剣による切れ味が上がる。『戦闘態勢』というのは感覚的なものなんだけど、意識を闘うことに切り替えることだ。これを上手くできないと、戦闘においてスキルが発揮できないという自体になるので、みんな、いかに早く切り替えれるようになるか必死に訓練する。先制を取られた時に少しでも早く戦闘態勢に入ることが出来れば、スキルを発揮して攻撃を避けることも可能なのだ。
この身体能力の変化は、戦闘態勢を解いたとき、あるいは武器を変えたときに消えてしまう。その変化は体に負荷がかかる。ハイになったあとの怠惰感とでも言おうか。
体に負荷がかかるといえば、他に『テンション上げ』というものがある。ドラクエでいう『力ため』に似ているもので、こちら風に言えば『体内の魔力の精度を上げる』ものらしい。これを強制的に行うのがバイキルトの魔法……ってそれは置いておこう。
とにかく、体に負荷がかかるこれらの変化は、加護レベルを施されることでなくなるという。
それには魔力が関係するらしい。
新たに借りた加護レベルの本に載っていたことには、魔力には四つの種類があるという。
誰もが多かれ少なかれ持っている一般魔力に加え、スキル魔力、加護魔力、そして経験値魔力である。
スキル魔力は、一般魔力から鍛錬や練習によって変換していく魔力で、上記のとおり、いい面もあれば悪い面もある。
だけど加護魔力は違う。
加護魔力は、経験値魔力がある一定にまで溜まったときに加護レベルに変換され生まれる魔力で、このレベルが上がるとどんどん量が増え、身体能力や魔力、体力が上がる。それをレベルアップというのだけど、この加護魔力というのは、スキルとは違い、常時体に変化を与えている。これが、負荷をなくすのだという。
例えば、と本に書かれていた例えが意味不明すぎて、オレは生暖かい気持ちになった。
『例えばあなたが全裸だとして、服(スキルによる変化)を着るか着ないかは大きな意味で違ってくるが、下着も服も着ている状態(加護レベルによる加護魔力)で、もう一枚、服(スキルによる変化)を着るか着ないかは、そこまでの変化はないだろう』
……なぜ全裸? 一般魔力が誰にでもあるって時点で、下着は着ていると思うんだけど、って、いやいやいや! この例えは真正面から捉えたら駄目な類だよな。伝えたい気持ちは伝わるんだけど、例えるものが変というか。えーと、もしかして城の国立図書館にある時点で、これはちゃんとした本のはずだから、この例えが変だと思うオレがおかしいのか……? いや、いきなり真面目な著書の例え話に『全裸』とか出てきたら普通、誰だってびびるよな……?
多分言いたいのは、加護レベルの洗礼を受けて、加護魔力にスキル魔力が覆うことで、体の変化の差異がなくなるということかな。……多分。
それはともかく、加護レベルを受けると、身スキルを覚えるスピードも上がると言われている。レベルアップのときに身スキルの段階が上がることもあるからだ。
このことから、加護魔力はわずかだが一般魔力のようにスキル魔力に変換されるのではないかといわれているそうだ。それもレベルアップ時にまとめてスキル魔力に変換される。その数値はばらばらだそうだが、成長するのはもっぱら使用頻度の高いスキルに偏るらしい。
そして体の変化の差異は、レベルが上がれば上がるほど少なくなるという体験談もあった。この本の例えで言うなら、重ね着(加護レベルアップ)していたら、もう一枚重ね着(スキルによる変化)しても気にならないということか? ……やっぱりこの例えは何か違うんじゃないだろうか。苦労の末何となくニュアンスは汲み取れたんだけど。
経験値魔力というのは、その名のとおりだ。本来なら倒しても霧散される魔物の魔力を、自らの魔力として取り込めることが出来るようになる。加護レベルの経験を積んだことで得られる魔力、略して経験値魔力だ。
レベルアップに必要な経験値魔力の量は個人差があり、またレベルが上がれば上がるほどレベルアップする経験値魔力の量は増える。
しかしその点を差し置いても、至れりつくせりの加護レベルだと思う。
「、ところでさ」
「うン?」
「おい、もっと声小さく」
兵士が去って、しばらくして、アコウが話しかけてきた。向かいのベッドのやつに注意されて、小さくした声でさらに続ける。
「さ、その加護レベルの本、全部鵜呑みにしたら駄目だぞ」
「あ、全裸ノとこロ?」
「いや? そこはいいんだけど」
いいの!?
思わず心の中で突っ込むと同時に別のやつが小声で同意した。
「そうだぞ! 本には良い事しか書いてないからな」
「え!?」
「しー」「馬鹿声でかい」
一気に周りの注意が入る。慌てて口を手で覆う。しんとした室内。兵士が戻ってくる気配はない。
「ごメん。それで、ヨい事シカ書いてないって?」
もしそれが本当なら、全然話が違うじゃないか!
「そう。やっぱり知らなかったか。まあ信仰つったって、教会のやつらも食わなきゃいけないからさ。信者や加護者を増やしたいわけだ。商売と一緒だな。ほら、不利益なこと言うと客が食いつかないからさ」
「それハ……えーと、それデいいの? 教会トして」
とても自然に、教会のがめつさを教えてくれたが、その内容に顔がひきつる。
「普通の商売だとまずいけど、教会の場合は暗黙の了解というか、みんなある程度はなんとなく知ってるからな。それに聞けば一から十まで教えてくれるんだよ、利益不利益を」
「お前、が知らないってよく分かったな」
茶々を入れられ、それにアコウが笑って答える。
「ああ、って騙されそうな顔してるから」
さすが商人の息子! とはやし立てられる彼。
「……本人目ノ前にいるンだけど」
「はは、ごめんごめん。それで加護レベルの利益はその本に載っているとおりだけど、不利益もそれなりにある」
なるほど。さっき、教会も食っていかなくては云々という言葉からもしかしてと当たりをつける。
「もしカしてカイヒ……お金取らレルとか?」
「正解!」
オレの推測を、すごく楽しそうな声で肯定してくれた。できれば否定して欲しかったな……。
「不利益にはな」
と、同室の彼らが教えてくれたことは、意外にたくさんあった。
一つは、誰もかれもが加護レベルを持てるわけではないこと。加護レベルを得られる人は限られてくる。なぜなら加護レベルの洗礼を受けるには、司祭以上の位の者と、三国いずれかの王様の両者の許可が必要だからだ。これは悪用しそうな者を、最初に弾くための処置であるのと同時に、『いつでもお上が把握してるぞ』という認識を持たせるためだそうだ。……後者は先輩新人兵の自論だけど、教会でなら正式名称『神のご加護レベル』が今現在いくつのレベルなのか、また次のレベルまでどれほどの経験値魔力が必要か『神のおつげ』として簡単に分かるらしいので、あながち間違いではないだろう。
ちなみに国王もその昔はおつげをしていた記録があるそうだけど、七賢者の時代からは教会だけの特権らしい。……なんていうか、裏の事情がありそうな匂いがプンプンする。
加護レベルの洗礼を受けるのに一番の難関は国王の許可だ。なんたって一般人では到底手の届かない相手だからだ。……まあ、一般人のくせに幸運にも王族と知り合えたオレが言うのはおかしいかもしれないが。
ともかく、難関は国王の許可だが、身元不詳でも、その両者の許可に加えて特定の条件をクリアした二人のサインがあれば加護レベルの洗礼を受けることができる。
ただし、受けることが出来たとしても注意が必要だ。
晴れて加護レベルを会得しても、今度は出費に泣くことになるのだ。やっぱり年会費のようなものもあるそうで、毎年、五百ゴールドプラス、レベル数のゴールドを払わなくてはならない。例えばレベルが1なら五百一ゴールドだ。ただし兵士なら、国から出してくれるそうなので心配しなくてもいいそうだ。
それからオレが知っているとおり、毒を消すとき呪いを解くときはもちろん、なんと神のおつげもお金がかかる。
蘇生はできるのかと聞いてみたら「制限が厳しいし、お金も基本料金にレベル相応の金額が上乗せされて割高だけど、出来るには出来る。だけど出来ないほうが多いから、出来ないものと思ってたほうがいい」とのこと。
オレは「出来ない」とはっきり言われなかったのが驚きだ。
次に、加護レベルを受けると魔物に狙われやすくなるという。
魔力は魔物を惹きつける。それは魔力が多ければ多いほどだ。
だからスキル魔力を伸ばし、加護レベルの洗礼を受けている者は、そうでないものに比べ格段に魔物に狙われやすくなる。
どちらが
一般人なら、聖石が敷かれている街道で聖水を使っていれば、それこそ滅多に魔物に襲われることはない。山賊に気をつければいいだけなのだ。
また魔法においては、レベルアップで覚えられるせいか、逆にレベルアップ時以外に、魔法を新たに覚えることが難しくなる。どんなに勉強しても呪文を暗記しても、唱えたところで魔法が発動しない。加護レベルのない者は完全に覚えるには時間がかかっても、適正さえあれば、呪文を唱えればそれなりの魔法の効果が発動する。
さらに、加護レベルを施されると、個々の性質によって特殊な耐性が生まれる。というのは、本に載っていたけれど、落とし穴があった。利点があるなら不利点もあるのだ。属性耐性の場合、他の属性の耐性が下がる。それは四大元素に雷を足した、五行思想に似た規則性で分類されていて、耐性のある属性から、自分が属する五行が分かる。そこから弱い属性を知ることが出来るのだ。
それから、加護レベルがレベルアップして身体能力に変化があると、その分力の加減が変わるため、慣れるようレベルが上がるたび練習をしないといけない。
そこで先輩新人兵たちの力加減を誤った失敗談、というより自慢? を聞かされた。やれコップを割っただの。シーツを引きちぎっただの。自慢大会となったみんなは楽しそうだけど、加護レベルを末恐ろしいと思った瞬間。
人であるはずが、化け物の仲間入りをするんじゃないだろうか、という恐怖だ。
そして、それは最後の不利点で、さらに現実に近づいた。
「あとな、加護は洗礼を受けたあとは消せないんだ。理由は分からない。だからこそ加護を施すには王様の許可と教会の司祭以上の位の人、この二人の許可が必要になる。消せないって言ってもまあ、最悪の場合は加護を封印する魔法陣があるらしいけど」
「あるンだ」
ほっとしたのもつかの間、言いにくそうに続けた。
「あるけど、罪人用だから」
「罪人……ってコとハ牢屋?」
「似たような感じ。とにかく加護レベルを封印どころかスキルも封印され、あげく精力まで磨り減るらしいから一般には使えないんだよ」
「恐イね」
「そう。だから、先輩は加護レベルを受ける前に、しっかり知るよう注意するんだよ」
「んで、オレらは細かいことや体験談を聞かれたらいつでも答えられるよう、待ち構えてたわけ」
「そうそう。なのにってば全然聞いてこないし。それどころか不十分な知識で満足してたし」
「ごメん」
「いいよ。それでな、加護レベルについて詳しいことを知って、どうするか決めなきゃいけないんだよ」
「……選べルの?」
「もちろん」
どうするか、とは加護レベルを得るか得ないか。てっきり強制的だと思ってたんだけど、どうやら違うらしい。
利点を知った。不利点を教えてもらった。そしてオレはそれを聞いて少し迷っている。加護レベルは、決していいことばかりではない。むしろ平和に暮らしたいなら、洗礼は受けないほうがいい。
「兵士として過ごしているときはいい。だけど何らかの理由で兵士をやめた後、引退した後もそれはついて回る。その覚悟があるか? そういうことを聞かれるはずだ」
「……」
迷う。兵士になる道が、トロデに近づく道。だけど迷いが生まれてしまった。
本当に、兵士になって、加護レベルを受けていいのか?
「ここ、新人兵の部屋なんだけど、いくつか空きがあるだろ?」
いきなりの話題に意識を戻す。
「う、うン」
数は四つ程度。オレが来る前は五つだったんだろう。
「おれ、兵になって半年くらいだけど、おれの知っている中で、三人、討伐隊に出る前にやめていったよ。だから珍しいことじゃないんだ」
「うン」
「まだ時間はあるんだ。ゆっくり考えなよ。おやすみ」
「……おやすみ」
長くなった話のためか、暗闇にほのかに光る月時計は満月(まよなか)を指し示している。
増えた寝息の中、オレは目を瞑った。
結局、遅くなった就寝のためか、アコウ、その他の面々が、オレが起きて準備が終わった後もまだ夢の中だった。
寝相の悪いやつは枕が足先になったりとおかしいことになっている。間抜けな姿だ。それは向こうの世界で修学旅行に行ったとき、見たクラスメイトの姿とそう変わらない。
昨日聞いたときは、恐くなった。普通ではなくなることに。
だけど、よくよく思い返せば、オレはその不利点を聞くまで、ごく普通に彼らを含んだ先輩たちと暮らしていたんだ。
何人かに迷子気質なオレの手を、引いて正しい道に連れて行ってもらったこともあった。
そのとき、力加減が出来ないと、痛い思いをしたか? していない。わざわざそんなことまでしてくれるほど親切な彼らは、オレの方向音痴を笑いこそすれ、哂いもせず。オレは感謝と申し訳ない気持ちだったけど、恐いと思う何かはなかった。
「なんだ……」
少しでも迷った自分が馬鹿らしい。
迷っているときも、迷いが晴れても根本にある決心は揺らいでいなかった。
すっきりした心持で、アコウたちを起こしにかかった。
「加護れベルヲ受けます」
そう、ルカさんとノットさんの前で口にした。
そうか、とほっとしたように息を吐いたノットさんは破顔した。
「ルカさんの鍛錬にも根を上げず、さらに自主勉もしている君だから絶対そう言うと思った」
「すみません」
足手まといが出来てしまう。それは分かっていても、兵士にはなりたい。
「どうして謝るんだ? 新しい仲間が増えるんだから俺は歓迎するよ」
明るい顔のノットさんと違い、ルカさんは相変わらず無表情でじろりとオレを睨んだ。思わず体がこわばる。
「勘違いしているようだから言っておくがな、」
と息を吐くルカさん。
「お前は、他のやつらと兵士になる理由が違う」
「そうですけど、ルカさん。加護レベルは人生を左右する大事なことなので、やはり本人が受けると言わなければ、受けさせられませんよ」
「あの、ドういうコトですか?」
「何間抜けな顔してるんだ。欠陥品」
あ。
そうだった。オレが兵士になったきっかけ。
ぎょっとしたように、ルカさんを見たノットさんが、慌てた様子で付け加えた。
「つまりね、の場合、加護レベルを受けるのはほぼ強制だったんだ。ま、本当にどうしても嫌って言うなら、前代未聞で加護レベル無しで兵士としてやってもらうことになってたけど、その場合、命の危険は増えただろうし、正式な兵士にはなれなかったはずだ。だからよかったよ快諾してもらえて」
ノットさんはそう言うと、すっと手を差し出した。
「討伐隊から同じチームとして、行動することになるからよろしく」
つまりこの手は握手だ。
ふと気づく。最初にノットさんに会ったとき、挨拶はされたけれど握手はされなかった。
この世界、少なくともトロデーンでは、頭を下げる挨拶も握手も入り混じっているが、より近しい関係ほど、触れ合う挨拶をするという傾向がある。
これは、ノットさんからの初めての握手なのだ。
「はイ! よろシクお願いしマす!」
オレは嬉しい気持ちを素直に笑顔に変えて、ノットさんの握手に応えた。
トロデーン兵の仕事の一つとしてある討伐隊。
この仕事は、簡単に言うと街道の治安維持である。
さらに、討伐隊には定期的に派遣しているものと、緊急で派遣するものがある。
人は、町から町へ、あるいは国から国へ移動する際、多くは街道を使う。
使用するのは巡礼者、商人、そして冒険者と呼ばれる旅人たちが大半を占める。
余談であるが、長距離の移動手段としてキメラの翼があるが、実はこれ、多くの制約があるため誰も彼も利用するわけではない。
制約の、一つは使用者のうちの誰か一人でも訪問したことのある場所にしか使えないこと。
一つは訪問したことのある場所でも、さらに受け止めるための魔法陣が敷かれている場所にしか使えないこと。
一つはキメラの翼を使用する際に、その場所をほぼ明確にイメージできること(イメージが不明瞭であれば発動しない…はずなんだけどオレは「失敗」した)
一つは移動には約三十秒程度のタイムラグがあり、相手先には使用者の魔力から使用者の簡単な魔力の傾向(善人悪人など)・人数が瞬時にして伝わること。
一つは上記のタイムラグ中に受け入れ側が拒否することができること
一つはキメラの翼を買うときと使用後の訪問の際に身分証明の提示が必要なこと(トロデは顔パスだ)
一つは使用者と使用者の十分の一程度の重さまでしか荷物を持てないこと。(自らキメラの翼を使えない家畜は荷物に分類されるらしい)
一つは使用者が複数いる場合、行使するのは一人でいいがキメラの翼は人数分必要であること。
一つは野生のキメラの落としたキメラの翼はそのままでは使えないので加工する必要があるということ。
移動魔法の場合は、能力次第でいくつかの欠点を補えるらしいが、ともかくキメラの翼にはこれらの欠点があるため、キメラの翼を使う旅人はそこまで多くなく、代わりに街道を使う人が多い。
特に商人は、荷物の制限のためにも街道をよく使う。
定期的に派遣される討伐隊は、そういう街道を旅する一般の人が、魔物に襲われにくくなるよう、一定の期間ごとに魔物の一掃をする。
そもそも街道には、魔物を近づけないようにする、聖水のような役割を持つ聖石が埋め込まれているのだが、それを新しいものに取り替えることも、仕事の一環だ。
そして緊急に派遣される討伐隊。これは例えば魔物が大量発生した場合など、人々の暮らしに何らかの害を及ぼす可能性が発生した場合などに、緊急にそれらを対処する任務を与えられる。
オレも他の新人兵と同じく、加護レベルを施されたあと、実戦として討伐隊に出て初めて正式な兵士として認められる。
決行日は、今日から一週間後。オレにとって、最初の討伐隊の出発日が、今回の決行日にあたる。これは定期的なほうの討伐隊で、東西の街道に分かれて一週間ほどかけて魔物を駆逐するのが任務だ。
決行日まで一週間、猶予がある。そう思っていたのに、さすがはルカさん。甘くはなかった。
「討伐隊ノ前にでスか?」
「そう。他の隊はどうか知らないけど、うちにはルカさんがいるからさ。「実戦も経験したことのないひよっこを大事な任務である討伐隊に参加させれるか!」っていう言葉から、先に加護レベルを受けて実戦を経験する方針になったんだ」
「へー……」
そんなわけで、オレは早速加護レベルを受けることになった。
討伐隊決行日までの一週間を月曜〜日曜に分けるとしたら、月曜に加護レベルを受けて、火曜日は準備と日程の話し合い、水曜日から金曜日まで野営の練習も兼ねた実戦の予行演習。土曜日休み、そして日曜から討伐隊。という日程だ。
加護レベルの洗礼は、教会でおこなわれた。
ちなみにオレ以外にも数人加護レベルを受ける人がいたが、見たことのない顔ぶれだった。他の小隊だとまだ顔を合わせる機会がないので、恐らく他の隊の人たちだろう。
通された別室の床には、ドラクエに似つかわしくない、鮮やかに光る魔法陣が敷かれていて、その上で一人一人、儀式をする。
とはいえ、そこまで厳格な儀式ではなく、一人当たり十分程度で完了するようだった。
最初に魔法陣を見たときに期待に踊った心は、神父の、お経のように長く、抑揚のない平坦な呪文により消えた。そして、部屋の端でそれを見守るオレの眠気を誘う。いや、正座じゃないだけマシだけど。
うつらうつらしていたオレを起こしたのは、神父の呪文が終わった時吹いた風だ。
風の鳴る音を耳に、体中に当たる風に目を開けると、青白い魔法陣の光は増していて、その端から、四本の金色に輝く呪文帯が飛び出た。それがまるでリボンが揺らめくように、宙に向けて揺れていたかと思うと、螺旋状に舞い上がり、呪文帯はキンという甲高い音と共に光の粒に。そして新人兵の上に舞い散った。
傍目に、受ける前と後で違いは見受けられない。しかし全ての光の粒が彼に舞い落ちて、消えたとき、神父が儀式終了の言葉を口にした。
その呪文帯のかけらは、少しだけ不安を抱いていた異世界出身のオレの儀式の時にも、光に照らされる雪のように舞い降りた。
加護レベルを受けた次の日には、予行演習に向けて、オレのスキルや武術の上達具合を見てもらった。
予行演習に行くのは、オレとノットさんとルカさんだけ。オレは真ん中で、二人に守られる位置だ。オレへの作戦は『命令させろ』で、ひたすら防御させると、決まってしまった。……何のための実戦やら。
しかし、予行演習が実行に移されるはずの前日の夕方、その中止を告げられた。
――行商人のキャラバンが襲われたという知らせを受けたからだ。
特殊な耐性について
他の属性の耐性が下がる、というのは思いっきり捏造です。
「逆の属性」にしなかったのは、ただ単に8主とゼシカの逆属性につまづいたからです。
ゲーム的な五行思想をもとに、強い順に、火<風<土<雷<水<火。
8主の属性→土。そのためデイン系に強くバギ系に弱い。
ヤンガスの属性→水。そのためメラ・炎系に強くデイン系に弱い。
ゼシカの属性→火・風。そのためバギ系・岩石系(強打系含む?)に強くヒャド系・吹雪系に弱い。
ククールの属性→雷。そのためヒャド系・吹雪系に強く、岩石系に弱い。
なんとなーく、それぞれ当てはめた属性が、キャラの性格とかイメージにマッチするような?
第四話(1)おまけ01:トロデ王子の焦り
第四話(1)おまけ02:あだ名の命名者
2011/04/09