【来訪編】

傍観者ではいられない
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第四話(1)おまけ02:あだ名の命名者

 

、今日の私のコーディネートも決まっているだろう?」

「はイ、トロデによク似合ってイマす」

 そのやり取りは、結構な割合でお茶会前の挨拶として浸透していた。

 すごく正直に言うと、トロデの個性的な顔では馬子にも衣装になりそうな色合いの組み合わせなんだけど、驚くほどトロデに似合っている。



 王族ともなると、その日どの服を着るかはメイドや家臣が決めるものらしいんだけど、トロデは自分で選ぶらしい。

 しかもそれが自称するだけあって、この世界の服装に慣れてきたばかりのオレでも、センスいいなと思えるような組み合わせなのだ。

 オレが褒めると、トロデは満足そうに笑みを浮かべて頷いた。

「そうだろうそうだろう。それと、敬語なのは仕方ないが、名前は『トロちゃん』でいいのだぞ」

 まだ、それ引きずっていたんですか!

「あの、そノ呼び方はチョっと……」

「む、一度くらい呼んでみろ」

「……トロちャん」

「うむ、なんだちゃん」

「……トロちャん、オレニちャん付けは似合イマせんのデ……!」

「そうか? 似合うと思うのだが」

 渋々という形でだが、なんとかちゃん付けはやめてもらえた。

 その後は、少し不機嫌になったトロデを、一生懸命トロちゃん呼びで褒めながらなだめることになった。





 後日、なぜかトロデに対して『お洒落のトロちゃん』という呼び名が広まっていた。

 とはいえ誰も大きな声では口にしない。『例の呼び名』という名で噂が広がっていた。その噂は、その呼び名をオレがトロデに付けたというものだ。

「え? オレジャナいよ?」

「またまた。じゃなけりゃ誰だよ。王子殿下を愛称で呼ぶなんて」

「うっ」

「ほらみろ」

 そりゃ確かに覚えはある。だけど、オレはそんな二つ名つけないぞ!

 新人兵の大部屋でオレは大きく主張する。

「でも、オレじゃナイノは確かでス!」

「王子は喜んでるんだから、隠さなくてもいいのに」

「そうそう。褒め言葉のあだ名だしな」

 ……結局誰にも信じてもらえず。



 で、噂の根源に聞いてみると返ってきたのははにかむような笑顔。……何でそこで?

「では、には紹介しておこうか」

 その言葉の数日後のお茶会は、以前一度だけ行ったことのある庭園のテラスで、ゲストを招いて開かれることになった。



 トロデ付きの従者とほぼ同人数の従者を連れた一人の女性。

 それはつまり、彼女の身分を表す。

 ゆるりと闊歩する純白の馬に乗るその姿。

 華奢な肩、白い肌、黒く腰ほどまである長い髪は、日差しから守るためさされた日傘の下では分からないが、風で吹かれて太陽のもとにさらされると、きらきらとした光沢を放つ。

 オレは慌てて跪いた。そりゃトロデがいるのにいつも通りなので今さらなんだけど、思わず。

 それと同時にトロデが女性を出迎える。

「待っていたぞ」

「トロデ様、本日はお招きいただきありがとうございます」

 少し幼さの残る、しかし聡明さをも伺える、緩やかな声。こういう例えは何だけど、鈴が鳴るというよりは風鈴のような声だ。風鈴のように、静かで優しい声音。

「いつも通りの呼び名でよいぞ」

 ひとしきり緊張しているオレの耳に、トロデの、普段とは違う穏やかな声が聞こえる。

「はい、分かりました。トロちゃん」

「へっ!?」

 思わず下げていた顔を上げる。

 オレの裏返った声に、トロデが振り返る。

「ん? 、どうして跪いているんだ? 立っていていいのだぞ」

「あ、はイ」

 ぎくしゃくとしながら立ち上がる。

 馬から降りた女性は、じっとオレを見ていた。

 目が合うと、ふっと微笑む。

「貴方がトロちゃんのお友達のですか? 初めまして」

 興味深げな碧玉色の瞳。

 伸ばされた前髪は、左右の髪と共に後ろに流され留めているようだ。そうすると白い肌色の顔が完全に露出する。

「……どうしたのですか?」

 その声にはっと我に返った。

「は、初めまシテお目にかカリます。私ハトロデ……王子殿下の友人をサセて頂いてイますと申シマす」

 見惚れていた。正直に言おう。見惚れていた……!

 慌てて挨拶をしたが、何とか噛まずに言えた。だけど本来なら、もっと畏まった口調で、かつ女性なので褒め言葉も言うものなんだけど、緊張でとても言葉少なな挨拶になってしまった……。

、緊張しているのか?」

「ハい……」

 声に笑いを含めてトロデがオレをからかう。

 思わずトロデを王子殿下と呼んでしまったけど、オレのあまりの緊張っぷりか、何も言われなかった。

 トロデが彼女の横に立ち、手を彼女に差し出すと、その白く細い手が、トロデの手に降りる。標準よりも背の低いトロデの手は、やはり標準男性のそれよりも小さいが、それでも彼女の手よりは少しばかり大きい。

 オレと手を繋ぐときとは質の違う、その仲睦まじい姿に、オレはもしかしてという思いが胸に広がる。

「紹介しよう。私の婚約者だ」


 ああやっぱり。という思いと共にシクリと胸が痛む。

 ……出会った数分後に失恋しました。



 そんなオレの心の変化なんて知らない二人とオレの三人で、お茶会は開始された。

 さすがに、少し元気がないとは思われたらしいけど、緊張してるということで通した。

 そして、ここで噂の真相が。

 『お洒落のトロちゃん』命名者は彼女だったのだ。

 まあ、トロデをトロちゃん呼びしている時点でもしかしてという思いはあったけど。

 その話の流れで、その場はちゃん付けお茶会と化した。

 ちゃんと彼女に呼ばれ、嬉しい反面物悲しい。呼ぶのは緊張しすぎて顔が真っ赤になったと思う。

 オレの心境は置いといて、ゲストを迎えたお茶会は無事終了した。




 例の噂の真相を知った後も、オレは吹聴するわけにもいかず、甘受することとなった。

 同室の彼らが言ったとおり悪い噂ではなかったため、痛い視線やちょっとした悪口は言われたものの特に騒ぎも起きず、やがてスポンジに水が浸み込むかのように人々に浸透し、消えていった。

 それをオレは、複雑な思いで見守ることになった。






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ミーティア姫との恋仲の伏線、では全くないのであしからず。
この頃のトロデ妻はちょうど姫と同じくらいの年頃ですが、夢主自身が同じ年頃だから一目惚れしたわけで。
体があまり丈夫でない婚約者と会うのは大概彼女の部屋で、アクティブに面白おかしくするトロデの話を、椅子に座って静かにでも嬉しそうに聴いている彼女、という図が思い浮かんで萌えた。
2011/05/10
2011/05/18 一部修正